シャモニーの先10km程にあるアルジャンティエールの町。
その頭上に広がるグラン・モンテのスキー場( 下写真左 )の雄大さには目を見張るものがありますが、そこから左手、アルジャンティエール氷河の方にふと目を向けると、町を見下ろすように静かにたたずむ建物の存在に気がつくことでしょう( 下写真右、夏の様子 )。
そう、これが標高2,032mに位置する Refuge de Lognan ロニオンの山小屋。
アルプス全体でおよそ4,000ほどの山小屋があるそうですが、そのうち「モン・ブラン山群」にはフランス・イタリア側合わせておよそ40ほど。
日中に軽い食事を提供するだけの所から宿泊施設の整ったものまで。
中にはモン・ブラン登頂をメインとした Tête rousse( 3,167m )や Le Goûter( 3,817m )などもありますが、残念ながら私がこちらにお世話になる事は恐らく今後もないかと。
大衆の一番人気は Refuge du Lac Blanc ラック・ブランの山小屋でしょうか。
こちらは夏期のみの運営ですが、宿泊、レストランの両設備が整っています。このラック・ブランまでは初心者でも気軽に高山ハイキングが満喫できるコースとなっており大人気。それなので宿泊の際にはかなり前からの予約が必要となっています。
そんな中、お勧めしたいのがこちらの山小屋 Refuge de Lognan。
夏期( 6月下旬から9月中旬まで )はもとより、冬期も運営。
しかもシャモニー谷で一番標高の高いスキー場 Grands Montetsグラン・モンテ にあるのでスキー場のオープン最終日まで( 大概5月の最初の週末 )利用することが可能です。
スキーのコースから少し外れた所にある為、初心者の方には少しばかりアクセスが難しいかと思いますが、その分ここまでやって来るのは本当に山好きな人ばかり。あるべき本来の姿、雰囲気を味わえる数少ない山小屋と言って良いのではないでしょうか。
先日、フランスのテレビチャンネル France 2 が「13h15 Les Français 」でその魅力を30分間に渡り紹介していました。
その名も「Le Refuge de Zian 」ジアンの山小屋。
この山小屋の現在の経営者の一人である Zian Charlet ジアン・シャルレ ( 35歳、高山岳ガイド 兼)を中心に彼がこの山小屋にそそぐ愛情、そして彼の家族との絆がたっぷりと描かれていました。
冬の間、山小屋に住みっきりになるジアン。
山を愛するクライアントとの触れ合いや大自然の中での生活は彼の好むところ。
但し、標高2,000mでの生活はそう容易ではなく。予期せぬアクシデントや孤独と戦かうこともしばしば。
そんな中、一週間に一度は訪れてくる彼の家族、特に子供たちの存在が彼には大きな力となっているようです。
7歳になる息子のヘルマン君が「将来はパパの様なガイドになりたい」と言った時に見せたジアンの嬉しそうな顔といったら、、。
http://www.francetvinfo.fr/replay-magazine/france-2/13h15/13h15-les-francais-du-dimanche-12-fevrier-2017_2050147.html
そしてそのジアンも、彼の父も、それぞれの父の背中を見、追いながら育った生粋の Montagnard モンタニヤール( 山に住む人 )。
Charlet シャルレ というファミリーネームはこのモン・ブラン谷、特にアルジャンティーエールでは知らぬ人のいない名前。
「ガイドの中のガイド」と呼ばれた Armand Charlet アルモン・シャルレ( 1990-1975 ) はジアンの父方の祖父。
第一次・第二次世界大戦間の時代に最もガイド界に影響を与えた人の一人とされ、世間が思い描くシャモニーのガイドの典型の様な人であった、と。
素晴らしいロッククライマーであり、完璧なアイス・アイスホールクライマーでもある彼は、有名な山岳雑誌の中でもこの時代の文句なしのリーダーであると評されていました。
柔らかなくるぶしを使い急峻な氷雪壁をすいすいと登り降りする彼。彼の技術の前には前爪付きのクランポンも必要なかったようです。
生涯で12,000人ものクライアントの夢を実現させ、モン・ブラン山群で3,000回もの登攀(登頂)を果たすとともに、「彼の庭」でもあった Aiguille Verte エギュイユ・ヴェールには14以上ものルートを使い( うち7ルートは彼が開いたもの )100回以上の登頂を果たしています。
世界で一番古いとされる1821年7月に創立された La campagnie des Guides de Camonix Mont-Blanc シャモニー・ガイド組合( 高山ガイドはもちろんのこと、氷雪や岩壁技術を含まない中級山岳地帯を案内するガイドを行う。ヴァレ・ブランシュも「高山ガイド」の仕事。 )のもちろん一員でもあった彼。
現在でもシャモニーにあるENSA国立登山スキー学校の免状がなくては入れない組合。
以前はシャモニー生まれの者のみが許可されいたこの重い扉、最近では「異国人(シャモニー以外の出身の者)」にも開くようになってきているようです。
そんな歴史のあるシャモニー・ガイド組合の会長に1990年から4年の任期で就任されたのが息子の Jean-Claud Charlet ジャン・クロード・シャルレ。その人望ゆえ、組合員たちに後押しされ62歳となった2015年にも再選されいます(組合始まって以来の事だとか)。
そしてその息子のジアンも2015年まで組合の副会長を務めていました。立候補したわけではなく、仲間たちからの信望で。
但し、今期は家族やこの山小屋にかける時間を持ちたいと自ら辞任した様です。
下左のビデオでは彼の父 Jean-Claud が Charlet 家とエギュイユ・ヴェールとの深い関係を語ってくれています。
右はシャモニー市内にある有名な壁画。シャモニーの歴史に残る登山家たちが描かれています。もちろん Armand もしっかりと。
山小屋からは360度、どちらを向いても絶景が広がっています。
天気の良い日にはテラスに出て素晴らしいアルジャンティエール氷河を目の前に食事をしても良し、小屋の中の温かい雰囲気に包まれて一時を過ごしても良し。
レストランは40席ほど。
地方名物のクルート( ジアン風 )や本日の定食などを含む手作りの食事は 7~18€と「山の上にあるレストラン」としては良心的。
* クルートとは直訳するとパンやパイ生地に物を詰めて焼いた料理という意味。
ニンニクを十分に擦り込んだ少し硬めになったバゲット(フランスパン)に白ワインをたっぷりかけ、ハムやチーズ(大抵はラクレットを含めた2~3種類のチーズ)をふんだんに盛り合わせ、その上からさらに生クリームをかけた後にオーブンで焼き上げたもの。
気取らず、型にとらわれず。
オーナー自らがお皿を下げにやって来て
「 alors, c'était mangeable !? どう、なんとか食べられる物だった!? 」などと聞いてくるレストランはそうないことでしょう。
宿泊施設も整っているロニオンの山小屋。
夕・朝食付き( 但し夕食時の飲み物は別途 )で 75€ / 泊。
2人部屋が6つに4人部屋が3つ。
沈む太陽に赤く照らされる山々、降り注ぐような星空、そして大自然の静寂。
誕生日パーティーやグループでの集いに利用したらきっと良い思い出になるのではないでしょうか。
下左2枚の写真は部屋からの眺め。グラン・モンテスキー場側とアルジャンティエール氷河側。
朝、窓を開けたらこんな景色が目の前に飛び込んでくる。なかなか出来ない経験ですよね。
ロニオン小屋までの行き方( 徒歩の場合の時間でもちろん全て上り坂 )。
アルジャンティエールから比較的楽な行き方から少しばかりスポーティーな行き方まで。 それぞれの体力に合わせて選んで下さい。
例 1 :グラン・モンテのゴンドラに乗りロニオンで下車。その後左手に伸びる遊歩道(冬場はスキーのコース内なので注意が必要、基本的には徒歩は禁止されています。)を道なりに進んで行くこと30分。(写真、左手に伸びる道)
例 2 :aアルジャンティエールからスキーのコースにもなっている《 Pierre à Ric 》を逆に登って行く事 3/4 程で左手の森の中に入り込んで行く小道を進む。
1時間30分から2時間ほど。
例 3 :Chosalets チョザレ ( 1247m ) から chemin de la trapette という森林を通るコースをロニオンまでジグザグと登って行く。冬場はスノーシューが必要。
ロニオンからは 例 1 の通り。
3時間30分から4時間ほど。
例 4 :麓にある La crèmerie du Glacier ラ・クレムリー・ド・グラシエーからガイドを伴い登る道。
3時間30分から4時間ほど。
冬期は、
Herse エルス というチェアーリフトに乗りBlanchats ブランシャコースの途中からオフ・ピステを右手に降りて行く。
或いは、
Grands Montets グラン・モンテ から Pylones ピロンヌ、そしてBlanchats ブランシャへと続くコースを取るか、Point de vue ポワン・ド・ヴュ コースの途中からやはりオフ・ピステで右手に降りて行く。
ちなみにいずれのコースも黒の上級者用。
ロニオン小屋の下には左の写真の様な絶好のオフ・ピステが広がっています。
開業当初は彼らの母が全て切り盛りしていたのですが、2015年からは長兄のジアンが冬場、次男のクリストフが夏場を担当するようになっています。
ジアンは前シャモニー・ガイド組合の副会長でもあったように、彼の家に代々続く高山ガイドを兼務。
弟のクリストフは Team Chamonix チーム・シャモニーの一員で、スノーボードのフリーライダー。
9歳からスノーボードを始めた彼は、その4年後にボーダークロスやフリースタイル、そしてスラロームなどの競技に参戦するようになり、2011年からはフリーライド・ワールドツアー参戦を目指すべく、カリファー(予選大会)で世界を転戦中。
兄同様、自然をこよなく愛する彼ですが、常に人の中心にい、優しい性格ながらも時には厳しくクライアントに対峙する( ガイド業には人の生死がかかっている )兄とは違い、寡黙で温厚な性格。
兄弟の性格同様、この山小屋も夏と冬ではまた違った雰囲気を楽しませてくれることでしょう。
クリストフのバイオグラフィー。
クリストフ、26歳。
スノーボード歴17年、競技歴13年。
商売とマーケティングバカロレアを取得。
2016年からは兄と一緒にロニオン小屋の運営。
2015年のフリーライド・ワールドカリファーで世界第5位、フランスチャンピオンの称号を獲得。
ワールドツアーへの参加は未だ叶っていないものの、今後も挑戦し続けて行くとのこと。
2009年には雪崩に巻き込まれ、35分間も雪の中に閉じ込められるという恐ろしい経験も。
が、命を残してくれた山、そしてスノーボードに対する愛情は彼の中では薄れることがありません。
こちら、夏のロニオン山小屋の様子。
ロニオン山小屋
最寄りの町:アルジャンティエール
最寄りのゴンドラ乗り場 :レ・グラン・モンテ
宿泊は要予約、食事も予約をお勧めします。
電話番号:00.33.(0)6.88.56.03.54
《 Le glacier d'Argentière 》アルジャンティエール氷河
モン・ブラン山群にある氷河の一つ。
スイスとイタリア、そしてフランスの3国にまたがる4,000m超級の山々をその3,000m付近から覆うこの氷河。
100年ほど前までは麓の町アルジャンティエール( 標高1,250m )までその先端が届いていたようですが、今では1,600m付近にまで後退。
ただ、至る処が裂け、荒々しくそそり立つ氷河の姿は他に例をみないもの。
時折、轟音とともに氷河の崩れ落ちるさまを目の前に見ることもできます。
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